患者さんの信頼を最も大切にし、身体に優しいうつ病治療を提供
TMS治療は頭部に磁気を照射することで脳機能の回復をめざす、副作用の少ないうつ病治療です。
- 渡邊 真也 統括院長
頼れるドクターが教える治療法vol.043
精神科
目次
一言でいえば、思考や判断、行動の機能を司る「前頭葉」の働きが低下して、元気がなくなる病気といっていいでしょう。例えば、趣味に打ち込んでいた人が興味を失ってしまう、意欲を持って仕事に取り組んでいた人が朝起きられなくなってしまう……。このような「興味」や「意欲」の低下がうつ病の典型的な症状として捉えられていますが、眠りたいのに眠れない・夜中に何度も目が覚める・予定よりも早く目覚めてしまうなどの睡眠障害、食事があまり食べられない、あるいは食べすぎるといった食欲の異常、集中力・記憶力・判断力の低下など、その症状はさまざまです。いずれにしても気を付けなくてはいけないのは、うつ病の最終的な診断は医師の診察によって行われるということです。元気がなくなったり、気分が落ち込んだりということは誰にでもあることで、セルフチェックだけで判定することはできません。また、上にあげた症状は、躁うつ病や統合失調症などの患者さまにも現れることがあります。医師がさまざまな状況を総合的に判断しなければ、うつ病かどうかはわからないのです。
うつ病は、前頭葉の「DLPFC(dorsolateral prefrontal cortex:背外側前頭前野)」と呼ばれる部位の機能が過剰なストレスによって低下することで発症すると考えられています。機能低下したDLPFCに磁気をあてることで、同部位の機能が回復します。磁気の刺激で脳血流があがるのです。磁気の刺激をTMSと呼んでいます。ちなみに「TMS」というのは、「経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation)」の略語です。治療の流れも非常にシンプルで、患者さまの頭囲を測って「DLPFC」の位置を決め、磁気を当てます。実際のTMSは、リクライニングソファに座り、頭をペンでトントンとさわるような感じです。
「TMS治療」の有効性に関しては、2013年6月〜2020年9月までに当院を訪れたうつ病の患者さま約2,500名を対象に調査を行ったところ、計30回のTMS治療によって約8割の患者さまに改善がみられました。TMS治療は副作用がほぼなく、薬に抵抗のあるうつ病の人に有効と考えられています。
ここでは副作用の有無や、効果が出るタイミング、治療頻度、全体的な治療期間について比較してみましょう。まず、「副作用」に関して申し上げますと、TMS治療の副作用はほとんど指摘されておりません。抗うつ薬は、吐き気やめまいといった副作用を伴うことが考えられています。
また、「効果が出るまでのタイミング」については、TMS治療の場合、30回の治療で約8割のうつ病患者さまに症状の改善がみられます。抗うつ薬の場合、見極めが難しいです。さらに、「治療頻度」に関しては、TMS治療の場合、患者さまの症状に合わせて週1回から3回で、週5回がベストとなっております。抗うつ薬は、基本的に毎日となっております。「全体的な治療期間」に関しても、TMS治療が約6週間〜半年程度で完了するのに対し、抗うつ薬では年単位の長期戦を覚悟する必要があります。TMS治療は、薬が効かない、もしくは薬に抵抗のあるうつ病患者さまにとって、きわめて有効と考えます。
ストレスがかかると自律神経のバランスが乱れます。ストレスによって、疲れやすくなったり、眠れない・寝過ぎるなどの睡眠障害が出現したりします。このような状態が続いている場合、うつ病を発症していることが多く、うつ病が重症化すると、仕事や学習、家事、外出などが困難となってきます。うつ病は早期発見・早期治療が一番です。治療に伴い薬依存にならないことも大切で、TMSでうつ病患者さまの約80%に改善がみられ、なるべく薬に頼らないことも重要です。どのような治療を行うにしても診断が大切であり、そのためには精神科領域では特に問診が重要になってきます。つまり患者さまとの信頼関係が一番大切だと考えております。
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