リストカットの傷痕治療。「戻し植皮手術」の可能性
「戻し植皮手術」によってリストカットの傷跡をより自然に、目立たなくします
- 村松 英之院長
頼れるドクターが教える治療法vol.071
形成外科
目次
アメリカで重症熱傷患者のために開発された、皮膚の再生医療です。1983年に2人の幼児に対して、わずかに残った皮膚から培養表皮を作製・移植し、大きな注目を集めました。日本でも、2007年に重症熱傷患者を対象とした再生医療等製品として国から承認され、2009年には保険が適用されています。当時私は、前橋赤十字病院の部長として多くの重症熱傷患者の治療にあたっており、自家培養表皮移植術もいち早く導入していました。私がこの治療に驚かされたのは、救命率が向上したことだけでなく、患者さんの傷跡が非常にきれいだったことです。実は2017年の当院開設時からずっと、この自家培養表皮移植術を傷跡の治療にも応用できないかと考えていたのですが、どうしても治療費が高額になってしまうため導入をためらっていました。しかし、リストカットの傷跡に悩む患者さんの受診が増えるに従い、新しい傷跡治療の選択肢として提案するべきなのではないかと思うようになってきたのです。そこで2024年の初頭からモニターを募り、11月からの導入に向けて実証を重ねてきました。
そうですね。例えば当院で取り組んできた「戻し植皮手術®」は、リストカット特有の横方向の傷跡を縦方向に変える手術ですので、どうしても傷跡自体は残ってしまいます。しかし自家培養表皮移植術ですと、自分自身の皮膚から培養した新しい皮膚を移植するため、傷跡そのものがなくなるのです。それがこの施術の最大のメリットであり、患者さんにお勧めしたいポイントでもあります。
ちなみに、モニターを受けてくださった患者さんは22歳〜51歳の男女10人で、平均年齢は30歳です。年齢は様々でその傷跡や範囲もみなさん違いましたが、傷跡を目立たなくする効果に有意な差は見られませんでした。「もう年だから」とか「もう何十年も前の傷跡だから」と諦めることなく、ご検討いただければと思います。
自家培養表皮移植術を受けると決めたら、まず同意書にサインをしていただきます。その後、移植予定日や、皮膚組織を採取する日を決め、手術代金の支払方法を確認。感染症にかかっていないか検査するために採血を実施し、問題がなければ皮膚採取日に来院していただくという流れです。手術は1年の間に採皮と移植の2度行い、その間の来院回数は15回ほどです。採皮から2か月は、ほぼ毎週通っていただくことになります。なお自家培養表皮移植術は、最後に傷ができてから2年以上経たないと実施できませんので、その点はご注意ください。
移植後2週間は激しい運動を避けて、なるべく安静にします。入浴についても、シャワーはOKですが、同じく2週間は患部を濡らさないよう防水していただいています。移植から1か月も経てば、湯船に浸かっていただいても結構です。
また、術後の痛みが心配な方もおられるでしょうが、痛みが比較的おだやかな点も、自家培養表皮移植術のメリットといえます。モニターの方々には3回分の鎮痛剤をお渡ししましたが、追加の処方を必要とされる方はいませんでした。痛みが少ない理由としては、採皮する皮膚の厚さが表面のわずか0.1〜0.2mmほどと、非常に薄いことが挙げられます。傷跡を切除するような手術に比べれば、皮膚への負担もはるかに低いといえるでしょう。
可能性はわずかですが、患部からの出血や皮膚の下に血がたまってしまう症状、感染、患部の腫れ、発赤、湿疹、色素沈着、薬へのアレルギー、局所麻酔による腫れ、痺れ、部分的な変形や引きつれ、皮膚の凸凹、皮膚の生着不良、潰瘍などが考えられます。しかし前述のとおり、私は重症熱傷の治療において、自家培養表皮移植術の経験を豊富に積んできました。わずかなリスクも回避できるよう、慎重かつ丁寧に施術させていただきます。
リストカットの傷跡で悩まれるのは、結婚を考え始めた時期の女性が一番多いように感じます。例えば、相手方の両親の前で腕まくりできなかったり、一緒に温泉に入れなかったり。さらに子供ができれば、学校の先生やママ友の目も気になってきますし、子供自身も「その傷はどうしたの?」と尋ねてくるかもしれません。そうして「いつか夫や子供に迷惑をかけるのでは」と、悩みが深くなってしまうのです。自家培養表皮移植術は自費診療になりますので、費用は決して安くありません。しかし新たな人生を歩み始める方には、その価値があるものと信じています。
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