上野 学院長 銀座MUクリニック | ドクターズインタビュー

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頼れるドクターが教える治療法vol.017

泌尿器科

パイプカットの啓蒙と後進の育成を図りたい
パイプカットの啓蒙と後進の育成を図りたい
銀座MUクリニック
  • 上野 学院長
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男性の避妊手術であるパイプカットのことを正しく知ってもらい、普及への一端を担いたい―。メスを使わない術式の「NSV法」において15年のキャリアがある上野学医師は2018年、日本では珍しいパイプカット専門の「銀座MUクリニック」を立ち上げた。欧米では家族計画の一つとして位置づけられているパイプカットだが、日本では偏見や注力する医師が少ないこともあって認知度が低いままだという。そんな状況を打開したいと、一般に向けた啓蒙と後進の育成を目的に開業した上野院長。痛みが強かった自分自身の患者体験を生かし、麻酔時に2つの工夫を行って痛みを減らしているという。治療時の注力点や開業の経緯を聞いた。(取材日:2019年3月16日)

麻酔時に痛みを減らす工夫を施し、負担の軽い方法で手術を行う

―そもそも、「パイプカット」とはどんな治療を指すのでしょうか。

パイプカットとは、男性の避妊手術を意味します。具体的には、精子の通り道である精管を切断して縛るもので、手術後は精液に精子が含まれなくなります。男性の精子は精巣(睾丸)で作られ、性的興奮の高まりとともに精巣から精管を通って前立腺に運ばれ、ここで精嚢と呼ばれる器官の分泌液と混ざって精液になるわけですが、パイプカットによって精管を切断すれば精子が前立腺に届かなくなるので、当然、射精時に精子が含まれなくなります。日本では一般的に、陰嚢の両サイドを1ヵ所ずつ、つまり計2ヵ所をメスで切開して精管を引っ張り出す方法が行われていますが、当院ではこの方法よりも患者さんへの負担が少ない「NSV」と呼ばれる方法で手術を行っています。

―NSVとは具体的にどんな方法なのでしょうか。

陰嚢の真ん中に特殊な鉗子で小さな穴を空けて、そこから精管を引っ張り出す方法です。メスで切り開かない上に傷口も1ヵ所で済むため、患者さんにとって優しい手術方法だと言えるでしょう。これは1970年代にアメリカで開発された術式で、現在、米国では主流となっていますが、日本ではパイプカットに注力する医師が少ないこともあってほとんど行われていません。私は泌尿器科医として約40年前にパイプカットの手術を初めて行い、15年ほど前からNSVを開始。それから今までに年間200例ほどのペースで手術を行ってきましたから、NSVの症例数は2千を超えているでしょう。パイプカット自体の症例数としても日本の医師の中ではトップクラスだと思われます。

―手術を行う上ではどんなことを重視していますか。

患者さんの痛みをできる限り減らしてあげたいと考えています。そのために当院では、麻酔時に主に2つの工夫を行っています。一つは、麻酔薬を含んだクリームを陰嚢に塗り、感覚を麻痺させた上で局所麻酔を行っていること。もう一つは局所麻酔を行う際に、インジェクターと呼ばれる特殊な注射器を使い、針ではなく圧縮した空気で皮膚を貫通させていること。これらにより、麻酔時の痛みを大幅に減らすことが可能です。インジェクターの使用は米国では一般的ですが日本では珍しく、またクリーム麻酔を行っている医療機関も少ないでしょう。こんな風に私が痛みの軽減に力を入れているのは、私自身がパイプカットの手術を受けるときにこれらの工夫なく局所麻酔を行ったために、とても痛い思いをしたからです。

麻酔時に痛みを減らす工夫を施し、負担の軽い方法で手術を行う

―パイプカットの専門クリニックは珍しいのでは。開院の経緯は?

パイプカットのみを行うために開院した医療機関という点でいうと、日本では当院だけではないでしょうか。私がこのクリニックを開設した理由は、啓蒙と教育にあります。パイプカットを一般の方に正しく理解してもらいつつ、将来的には私の指導によって手術を行える医師を増やしていきたいと考えています。日本ではまだパイプカットそのものを知らない人が多く、また言葉だけを知っていても、どこかネガティブなイメージを抱いている人が多いと思われます。日本では性に関わることを公に話す機会が少ない一方、メディアなどで流れる情報が偏っていることもあって、いわゆる“遊び人”が受けるものと考えている人も少なくありません。しかしながら、世界的に見ればそうしたイメージは真実を捉えていないものなのです。

―「パイプカットを世界的に見る」とは具体的にどういったことでしょうか。

欧米では家族計画の一つに位置付けられています。夫婦で話し合い、「これ以上は子どもをつくらないようにしよう」と出した結論の下で行われるファーストチョイスがパイプカットです。欧米で広く信仰されているキリスト教では、性交は子を授かるための行為であり、避妊を推奨していません。日本における避妊の第一選択であるコンドームの装用は避妊のためでなく、感染予防のためと認識されています。ですから、欧米ではパイプカットを専門に行う医療機関がたくさんあるわけです。そうした文化的な背景の違いだけでなく、日本では人工中絶も認められているため、パイプカットの認知度が低く普及しないのでしょう。私は過去にイギリスでも診療を行っていたため、実感を持ってこれらのことが言えます。

ドクターからのメッセージ
  • 上野 学院長

人工中絶はどこか必要悪のように捉えられている向きがありますが、本来、行わなくていいことではないでしょうか。私は泌尿器科医として、パートナーの妊娠を望む人と望まない人の両方を診ていく中で、不要な中絶を減らしたい、その方法として有効なパイプカットを正しく知ってもらいたい思いが強くなり、このクリニックを作りました。患者さんの中には予期せぬ妊娠が発覚し、「二度とこんなことを起こしたくない」と切迫した面持ちで来院される方もいらっしゃいます。ですから、日本でも家族計画を叶えるための手段として普及していくことを願っているとともに、私の取り組みがその端緒になればと考えています。麻酔の痛みが不安な方も多いと思いますが、当院ではできるだけ痛みの少ない方法で治療を行っているので、家族計画として妊娠を望まない人は早めにご相談いただきたいと考えています。

パイプカットの啓蒙と後進の育成を図りたい
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住所
東京都中央区銀座5丁目1−8
最寄駅
銀座駅(銀座一丁目駅)
アクセス
東京メトロ銀座線・丸ノ内線・日比谷線の銀座駅C2出口から徒歩約2分
診察領域
泌尿器科