前向きな治療に大切な
「納得感」は、患者様
との丁寧な対話から
慢性疾患の治療から健康相談まで。感染症対策を徹底した院内で丁寧にお話を伺い、患者様に寄り添います。
- 美園おなかと内科のクリニック 北海道札幌市豊平区
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- 岡本 耕太郎 院長
頼れるドクターが教える治療法vol.017
泌尿器科
目次
パイプカットとは、男性の避妊手術を意味します。具体的には、精子の通り道である精管を切断して縛るもので、手術後は精液に精子が含まれなくなります。男性の精子は精巣(睾丸)で作られ、性的興奮の高まりとともに精巣から精管を通って前立腺に運ばれ、ここで精嚢と呼ばれる器官の分泌液と混ざって精液になるわけですが、パイプカットによって精管を切断すれば精子が前立腺に届かなくなるので、当然、射精時に精子が含まれなくなります。日本では一般的に、陰嚢の両サイドを1ヵ所ずつ、つまり計2ヵ所をメスで切開して精管を引っ張り出す方法が行われていますが、当院ではこの方法よりも患者さんへの負担が少ない「NSV」と呼ばれる方法で手術を行っています。
陰嚢の真ん中に特殊な鉗子で小さな穴を空けて、そこから精管を引っ張り出す方法です。メスで切り開かない上に傷口も1ヵ所で済むため、患者さんにとって優しい手術方法だと言えるでしょう。これは1970年代にアメリカで開発された術式で、現在、米国では主流となっていますが、日本ではパイプカットに注力する医師が少ないこともあってほとんど行われていません。私は泌尿器科医として約40年前にパイプカットの手術を初めて行い、15年ほど前からNSVを開始。それから今までに年間200例ほどのペースで手術を行ってきましたから、NSVの症例数は2千を超えているでしょう。パイプカット自体の症例数としても日本の医師の中ではトップクラスだと思われます。
患者さんの痛みをできる限り減らしてあげたいと考えています。そのために当院では、麻酔時に主に2つの工夫を行っています。一つは、麻酔薬を含んだクリームを陰嚢に塗り、感覚を麻痺させた上で局所麻酔を行っていること。もう一つは局所麻酔を行う際に、インジェクターと呼ばれる特殊な注射器を使い、針ではなく圧縮した空気で皮膚を貫通させていること。これらにより、麻酔時の痛みを大幅に減らすことが可能です。インジェクターの使用は米国では一般的ですが日本では珍しく、またクリーム麻酔を行っている医療機関も少ないでしょう。こんな風に私が痛みの軽減に力を入れているのは、私自身がパイプカットの手術を受けるときにこれらの工夫なく局所麻酔を行ったために、とても痛い思いをしたからです。
パイプカットのみを行うために開院した医療機関という点でいうと、日本では当院だけではないでしょうか。私がこのクリニックを開設した理由は、啓蒙と教育にあります。パイプカットを一般の方に正しく理解してもらいつつ、将来的には私の指導によって手術を行える医師を増やしていきたいと考えています。日本ではまだパイプカットそのものを知らない人が多く、また言葉だけを知っていても、どこかネガティブなイメージを抱いている人が多いと思われます。日本では性に関わることを公に話す機会が少ない一方、メディアなどで流れる情報が偏っていることもあって、いわゆる“遊び人”が受けるものと考えている人も少なくありません。しかしながら、世界的に見ればそうしたイメージは真実を捉えていないものなのです。
欧米では家族計画の一つに位置付けられています。夫婦で話し合い、「これ以上は子どもをつくらないようにしよう」と出した結論の下で行われるファーストチョイスがパイプカットです。欧米で広く信仰されているキリスト教では、性交は子を授かるための行為であり、避妊を推奨していません。日本における避妊の第一選択であるコンドームの装用は避妊のためでなく、感染予防のためと認識されています。ですから、欧米ではパイプカットを専門に行う医療機関がたくさんあるわけです。そうした文化的な背景の違いだけでなく、日本では人工中絶も認められているため、パイプカットの認知度が低く普及しないのでしょう。私は過去にイギリスでも診療を行っていたため、実感を持ってこれらのことが言えます。
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