おいまつクリニック 山崎 孝浩 院長 | ドクターズインタビュー

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頼れるドクターが教える治療法vol.040

心療内科

認知症治療・ケアに新たな光を〜BPSD治療と応用行動分析〜
認知症治療・ケアに新たな光を〜BPSD治療と応用行動分析〜
おいまつクリニック
  • 山崎 孝浩 院長
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愛知県豊橋市の認知症・老年心療内科「おいまつクリニック」。もともと大学病院等で一般精神科診療に携わっていた山崎孝浩院長は、認知症で精神科に入院する患者が増加し、その予後が本人・家族の望まない形になるケースが多いことを目の当たりにして早期発見・早期介入の重要性を痛感。「認知症のごく早期、予備軍の段階から然るべき対策を講じ、中長期的なタイムスパンできめ細かな経過観察を続けることで、入院が必要となるほどの深刻な状態に陥るのを防ぎたい」との熱い志をもってクリニックを開院した。同院が力を入れるBPSD治療、応用行動分析を中心に話を伺った。(取材日 2020年10月29日)

精神科医の強みを生かした、“オーダーメイド”の「BPSD治療」

― BPSDの治療に力を入れていらっしゃると伺います。BPSDとは何でしょうか。

幻覚や妄想、徘徊や焦燥、社会的に不適切な言動、暴言、抑うつなどの「認知症に伴う行動心理症状(Behavioral and psychological symptoms of dementia)」のことです。認知症というのは、何らかの原因で脳の機能が低下して生活に支障をきたす状態を指し、もの忘れや判断力、理解力の低下が“中核症状”とされています。これに対してBPSDは“周辺症状”。つまり、中核症状に伴ってあらわれる症状ですが、ほとんどの患者さんが何らかのBPSDを経験するといわれています。BPSDはご本人の心理状態や体調、それからご家族や支援者との関わりなど、さまざまな要因が複雑に絡み合うことによって生じると考えられています。BPSDの原因を特定するのは難しい場合もありますが、経験上、ある種のパターンや傾向が存在するのは間違いありません。そして、なかでもBPSDの発症に大きな影響を及ぼすのが、周囲の人々の関わり方なんです。

― BPSDを抑えるには、周囲の人々が対応を変えることが大切なんですね。

その通りですが、ご本人とのこれまでの関係性やコミュニケーション様式をがらりと変えることは簡単ではありません。例えば「いままで通りにできなくても、頭ごなしに叱ったらダメ」と頭では分かっていても、ご家族にもそれぞれの生活がありますから、余裕がなくなればついつい怒鳴ってしまう。こうした心情は当然理解できます。また、一口に“ご家族”といっても、主に介護を担っているのが配偶者なのか、息子さんや娘さんなのか、あるいはお嫁さんなのかによって、ご本人への思いはさまざまです。ご本人の状態を老年精神医学の専門的見地から評価するとともに、それぞれのご家庭の事情を考慮しながら、いわば“オーダーメイド”で治療や対応を提案する。精神科医ならではのアプローチだと思っています。

目標は“受け皿”を整えること。そのカギは「応用行動分析」にあり

― BPSD治療の治療目標はどこにあるのでしょう。また、そのためのアプローチについて聞かせてください。

ただBPSDを無くそうとするのではなく、“受け皿”を整えることだと思います。ご家族や支援者だけでなく、ご本人もBPSDに振り回されない状態にすることが治療の目標です。これを実現するために、次の2つのアプローチを並行して進めます。1つは薬物療法によって症状を緩和すること。もう1つはご本人に対するご家族・支援者の関わり方や見守る環境を変えていくことです。これら2つのアプローチをどのように使い分けるのか、組み合わせるのかが腕の見せ所なのですが、その見極めや治療のための重要なツールになるのが「応用行動分析」です。

―「応用行動分析」とはどのような手法なのでしょうか。

繰り返し起こっている行動の直前及び直後の状況変化をていねいに読み取ることで、その行動が果たしている機能や意味を理解し、治療に結びつけていく手法です。一例として、「同じ質問を繰り返す」という行動を取り上げてみましょう。介護現場では「毎回、はじめてのように話に応じる」ことが推奨されてきたものの、周囲は疲弊して必ずしも良いケアに結びつかないことがありました。「応用行動分析」では次のように考えます。例えば、「同じ質問を繰り返す」ことが、食事の支度中などご家族との関わりが少なくなっている場面で起きやすいことがわかれば、「質問」によって他者との関わりが得られるというメリットが形成されている可能性を疑います。仮に「さっき言ったでしょ!」といったご家族からの叱責であったとしても、ご本人にとって関わりがまったくないよりはマシな状況なのかもしれません。いま問題となっている行動の性質・機能に応じて、その行動の直前もしくは直後の対応・環境を工夫することで、結果として問題行動を減らすアプローチが応用行動分析の手法です。

― 患者様のご家族からはどのような感想が寄せられていますか。

「すごく良くなった」とおっしゃる方が多いですね。認知症が完治するわけではないので、最初はこちらが不思議に思っていたのですが。ご本人の状態に応じて薬物療法と非薬物療法を組み合わせながら、しっかりと道筋を立てて治療を進めていく過程で、“見えない敵”と戦っているという不安が解消され、心にゆとりができるのかもしれません。

ドクターからのメッセージ
  • 山崎 孝浩 院長

認知症・BPSDについて“年のせいだから仕方がない”と捉えている方もいらっしゃいますが、そんなことはありません。早い段階から治療をはじめることで、認知症の進行を遅らせたり、BPSDを抑えたりすることができます。穏やかな生活を続けるためにも、「ちょっとおかしいな」「いつもと違うな」と思った段階で、ご相談いただければと思います。

認知症治療・ケアに新たな光を〜BPSD治療と応用行動分析〜
認知症治療・ケアに新たな光を〜BPSD治療と応用行動分析〜

おいまつクリニック

場所
愛知県豊橋市老松町193番1 MAP
電話
0532-64-6117
診察領域
精神科、心療内科
専門医
認知症専門医、精神科専門医、老年精神専門医
専門外来
物忘れ専門外来(認知症外来)